1. 導入 —— 介護した甥姪の思い
私は長年、ひとり暮らしの叔父(叔母)の介護をしてきました。買い物や通院の付き添い、入院時の看病、日常の細々した手伝いまで、まるで家族のように寄り添ってきました。周囲の人も「きっと財産はあなたに多めに残されるはず」と言い、私自身もそうなるだろうと思っていました。
しかし実際に亡くなってみると、現実は大きく異なっていたのです。
2. 法定相続分の壁 —— 平等に分け合う現実
配偶者も子もいない、いわゆるおひとり様が亡くなると、相続人は兄弟姉妹です。兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合には、その子である甥姪が代襲相続人となります。
つまり、介護を担った私も、遠方に住む親戚や、ほとんど交流のなかった甥姪と同じ立場で、法定相続分に従って平等に分け合うだけ。長年の介護や世話は、法定相続分には一切反映されません。「介護したから多くもらえる」という自動的な仕組みは存在しないのです。
3. 寄与分と特別寄与料 —— 分割協議でまとまらなければ裁判所へ
民法には「寄与分」という制度があります。これは、被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした相続人に対して、その貢献を考慮して相続分を修正する仕組みです。介護や療養看護も対象に含まれます。
ただし、寄与分を主張しても遺産分割協議で他の相続人が認めなければ話は進みません。合意が得られない場合には、家庭裁判所に調停や審判を申し立てて、寄与分の有無や額を判断してもらう必要があります。
一方で、相続人でない親族が介護などをした場合には、2019年7月施行の特別寄与料制度(民法1050条)を根拠に請求できます。こちらも協議が前提であり、まとまらなければ家庭裁判所に持ち込まれることになります。
つまり、介護の貢献を相続に反映させるには協議や裁判所の手続を経なければならず、簡単ではないのです。
4. 生前準備の重要性 —— 遺言と生命保険
では、どうすれば「ありがとう」の気持ちを確実に形にできるのでしょうか。その答えは、被相続人の生前準備にあります。
第一は、遺言書です。特に公正証書遺言を作成して「介護してくれた甥姪に多めに相続させる」と明記しておけば、その内容はそのまま実現します。兄弟姉妹や甥姪には遺留分がないため、遺言による配分が妨げられることもありません。さらに遺言執行者を指定しておけば、預貯金の払い戻しや不動産の名義変更もスムーズに進みます。
第二は、生命保険の活用です。被相続人が受取人に甥姪を指定すれば、保険金は受取人固有の財産として支払われ、遺産分割の対象外となります。受取人が自ら単独で手続きを行えるため、相続財産の分割協議を経ずに済み、相続手続きに比べて簡易かつ迅速に受け取れるのが大きなメリットです。
遺言と生命保険、この二つを組み合わせることで、被相続人の意思は確実に実現され、介護を担った甥姪の思いも報われるのです。
5. まとめ —— 甥姪の立場からの願い
介護を理由に法定相続分以上の取り分を得ることは、遺産分割協議での合意がなければ裁判所に持ち込まざるを得ず、時間も労力もかかります。相続人でない親族が介護していた場合に利用できる特別寄与料制度(民法1050条)も、結局は協議や裁判所での判断が必要です。
私たち甥姪にとって、それは大きな負担であり、できれば避けたいものです。だからこそ切実に願うのです。「ありがとう」という気持ちは遺言と生命保険で形にして残してほしいと。おひとり様の相続こそ、生前の準備が残された親族への最大の配慮になります。
