コラム

20.生成AI時代に考える、士業の「経験知」の価値とは
〜便利な時代だからこそ、専門家に相談する意味〜(2025年5月)

1. はじめに:生成AIはとても便利。でもそれだけで本当に安心ですか?

近年、ChatGPTをはじめとした生成AIが急速に普及し、調べ物や文章作成など、多くの業務において役立てられるようになってきました。
私自身も、行政書士業務の中で、簡易的な情報整理や参考資料の作成にAIを活用することがあります。

しかし、便利である一方で、「生成AIの回答は本当に正確か?」という疑問も出てきます。
特に、税務や許認可など、専門性の高い分野ではどうでしょうか?

2. 生成AIの限界:どれだけ賢くても“実務の運用”まではわからない

生成AIが出す答えは、あくまでも「インターネット上の公開情報」に基づいています。
つまり、書籍やWebに書かれている一般論や制度の概要は得意ですが、実際の運用や、役所ごとの解釈・対応には対応できません。

たとえば、AIに税務相談や行政手続きの方法を尋ねると、多くの場合で「専門家にご相談ください」と表示されます。
これは、AI自身がその限界を認識しているという証拠とも言えます。

3. 士業が持つ「経験知」:ネットやAIには載っていない知識がある

私たち行政書士をはじめとする士業には、
日々の実務で得た「経験知(けいけんち)」があります。

これは、制度の表に現れない実務の“裏側”とも言える知識であり、
ネットには載っておらず、AIにも学習されていない、現場に根ざしたノウハウです。

例えば:
- ある自治体では通る申請が、別の自治体では却下されることがある
- 担当者によって求められる資料や説明が微妙に異なる
- 近隣説明や同意取得において、どう進めればスムーズか判断できる

こうした実務感覚は、まさに「場数」がものをいう領域です。

4. 正しいだけじゃ足りない:「判断」や「交渉」ができるのが専門家

AIが提示する情報は、制度の「正解」であることが多いですが、
現実の行政実務においては「どう進めるか」「どう交渉するか」という“判断”こそが重要です。

たとえば、太陽光発電設備の設置に伴う農地転用を進める場合、
法令に基づいた資料を揃えるだけでは済まないこともあります。
近隣住民への説明、自治体との事前協議、地域特有の課題——
こうした対応には、経験に裏打ちされた判断力と対応力が求められます。

5. 専門家に相談するという「安心」:生成AIと士業は役割が違う

生成AIは、あくまでも「調べもの」や「整理」のためのツールです。
一方、私たち士業は「相談」や「判断」、そして「行動」を伴う支援ができます。

つまり、
- AI=情報を提供するもの
- 士業=現実を動かすもの

という役割の違いがあります。

もしも生成AIの回答に不安を感じたとき、あるいは情報があってもどう進めるか判断に迷ったとき、
それは専門家に相談すべきタイミングです。

6. おわりに:AI時代だからこそ、士業の価値がより問われる

AIの進化によって、情報収集や文書作成の一部は効率化されていくでしょう。
しかし、どれだけ便利になっても「人の事情に寄り添い、現実に即した判断をする力」は、やはり専門家の役割です。

私たち行政書士は、制度と現実の“間”をつなぐ橋渡し役として、これからも価値を提供してまいります。

生成AIを使って不安になったとき、また判断に迷われたときには、どうぞ遠慮なくご相談ください。
皆さまの安心と円滑な手続きのため、誠実に、そして的確にサポートさせていただきます。