コラム

13. 私が遺言書を残す理由(2024年10月)

今月のコラムでは、私自身が自分の遺言書を残す場合を考えてみたいと思います。

  1. 設定
    以下の家族構成を設定して考えていきたいと思います。
    私には、妻と長男、長女の三人の家族がいます。長男は、すでに成人しており、海外に赴任していて年に数回しか帰国しません。長女はすでに嫁いでおり、現在東京で夫と子供と生活しています。私と妻は、地元蒲郡にいて夫婦で生活をしております。
  2. 遺言書を書く理由
    遺言書を書く理由は以下の三点にあります。
    1. 最後にあたり残された妻と子供たちに言い残したいことがある。
      例えば、家族みんな仲良く健康に過ごしてほしいとか。子供達には、今後も妻を支えてほしいとか。私の人生、妻や子供たちのおかげで幸せに過ごすことができたので感謝しているとか。このようなメッセージを残された家族に伝えたいです。
    2. 法定相続分以上のものを特定の相続人に残したい。
      現状、私の家族は、妻と子供二人です。法定相続では、妻に相続財産の2分の1、残る2分の1を子供たちで均等に分けるので、長男は4分の1、長女が4分の1となります。
      妻は、長年パート勤めをしていたので、収入が少なく老後が心配です。そこで、できるだけ多くの財産を妻に残しておきたいと思っております。残された妻が、いざという時、子供たちに頼らず、施設で過ごすことができるように全財産を妻に残しておきたい。少なくとも、妻が今いる家に住み続けられるように自宅の不動産とすぐに使える預貯金くらいは、妻に残したいと思っております。
      しかし、子供たちには、それぞれ自分の家族がおり、現状自分の法定相続分は確保したいと考えているかもしれない。
      そこで、妻に全財産を相続させるという遺言書を残しておけば、子供たちにも私の財産は残された妻のために使ってほしいという強いメッセージが残せると思います。
      ※ここで、法定相続人には遺留分といって、必ず相続財産からもらえる権利がありますが、ここでは考慮しないでください。
    3. 相続手続きが簡略化される。
      遺言書がない場合、遺産分割協議をして遺産分割協議書を作成します。そのためには、相続人全員が揃わなくてはなりません。現状、長女は東京、長男はさらに遠方の海外に赴任しているため、相続人全員が一同に集まることは難しいのが現状です。その上、遺産分割協議書を作成する必要があるため、書類のやり取りを郵送で行うにしても手続きが面倒で、時間もかかります。
      そこで、遺言書があれば、遺産分割協議書を作成しなくても相続手続きを円滑に進めることが可能になります。
      また、遺産分割協議書を使って、銀行口座や不動産の相続手続きをする場合、私の出生から死亡までの戸籍や住民票等に加えて、相続人全員の現在の戸籍や住民票に印鑑証明書まで必要になります。しかし、遺言書があれば、私の死亡記載のある戸籍と住民票、遺言書に私の財産を譲り受ける妻の戸籍や住民票等など、遺産分割協議書を使って相続の手続きをするより必要な書類が減ります。よって、その分、私の財産を妻の名義にする手続きが速く円滑に進みます。
  3. 自筆証書遺言か公正証書遺言か
    では、自筆証書遺言か公正証書遺言かどちらを選ぶべきでしょうか。
    1. 残す財産がたくさんある場合、自筆証書遺言に不備があると遺言書の効力が認められません。そこで、公証人が作成する公正証書遺言の方が、遺言書自体は公証人が作成するので、不備が少なく、作成された遺言書も公証人が一通保管するので、改ざんや紛失の恐れも心配する必要がないと思われます。
      しかし、公正証書遺言は、公証人のところに赴くか、もしくは、公証人に自分のところに出張してもらう必要があります。その上、公正証書遺言書を作成する際は、証人が必要になります。証人を公証人の方で手配してもらうにしても別途費用がかかります。このように、公正証書遺言は、自筆証書遺言に比べて、費用がかかります。
      その上、遺言書が存在することに対する通知の制度がありません。そこで、事前に公正証書遺言書の存在を誰かに知らせておく必要があります。そうしないと、せっかく作成した私の遺言書が日の目を見ることなく埋没してしまいます。その一方で、公正証書遺言書を作成しても、事前にその存在や内容が外部に漏れる可能性があります。
      ちなみに、公正証書遺言の有無は、相続人等から公証人役場を通じて平成以降に作成された公正証書遺言書を全国の公証人役場に照会する(遺言書の存在の有無を確認する)ことができます。
    2. そこで、不動産は自宅だけで所有する銀行口座は数個しかない私は、自筆証書遺言書を作ることにします。
      書面の多くは、自書しなくてはならないですが、財産目録などの一部は自書の必要がなくなりましたので、以前よりも作成しやすくなりました。その上、法務局に保管する制度ができたことで、改ざんと紛失、検認の不備の心配もなくなりました。さらに、法務局に保管する際に、法務局の職員の方が、遺言書をチェックするので、自筆証書遺言書の形式的な不備は格段に少なくなりました。
      そして何より、通知制度を利用することにより、遺言書を保管する際に届け出ることで、私が亡くなった際に遺言書の存在を指定の人に知らせてくれます。遺言書が埋もれることなく、また、その存在も私が亡くなるまで秘密にしておくことができます。
  4. 結論
    以上の理由により、私は全ての財産を妻に残すという自筆証書遺言書を作成して、法務局に保管し、通知制度を利用することで、私が亡くなった際に、初めて遺言書の存在を相続人である妻や子供たちに知らせたいと思います。

以上、私が遺言書を作るならどのようなことを考え、どういった理由でその遺言書を作るのかを書いてみました。
遺言書を残す際に、何より重要なのは、遺言書を書く人の意思です。「残された家族にどのようなメッセージをおくるのか」、この視点が何よりも重要だと私は考えます。
このコラムを読む皆様のご参考になれば幸いです。