コラム

9.葬儀費用について(2024年6月)

  1. 口座凍結について
    銀行の口座は、名義人がお亡くなりになり、そのことを銀行が把握すると凍結されます。
    言い換えると、名義人の死後は、銀行口座のお金の出し入れはできなくなります。銀行口座凍結後は公共料金の引き落としを故人の口座でしていると、公共料金の引き落としもできなくなります。これは、銀行が故人の口座のお金を二重に支払うことを防止するための自衛手段です。
  2. 葬儀費用について
    しかし、人は亡くなってからもいろいろとお金の必要があるものです。その代表例が、「葬儀費用」です。最近、葬儀費用のお金は、故人の口座から引き落とすことができるとお聞きになったことがあると思いますが、正確な表現ではありません。今月のコラムは、凍結された故人の口座から引き出せるお金について記載します。
  3. 遺産の分割前における預貯金債権の行使(民法909条の2)
    1. 根拠条文
      故人の口座からお金を引き落とす根拠条文は民法909条の2です。この規定により各相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に法定相続分を乗じた額については、単独で払い戻すことができるようになりました。同条を根拠に、故人の口座からお金を引き落とし、故人の葬儀費用にあてることができます。
      ちなみに、同条では、払い戻しの理由については規定していませんので、故人の口座のお金を引き落とす際には、用途は葬儀費用に限定されていません。
    2. 引き落とし金額の制限(重要)
      ただし、上限は一金融機関につき150万円までです。つまり、一つの金融機関に複数の口座があり、総預金額が150万円を超える場合でも、その金融機関から払い戻しをうけることができる金額は150万円までです。
      しかし、それぞれの金融機関から上限150万円まで故人の口座から引き落としが可能ですので、150万円以上のお金を必要とする場合は、複数の金融機関を利用すれば、故人の口座から150万円以上のお金を引き落とすことが可能です。
    3. 払い戻し回数
      民法909条の2には規定がありません。よって、一金融機関につき、上限額150万円に達するまで、回数制限なく払い戻し請求が可能です。
    4. 計算式
      一金融機関あたり単独で払い戻し請求できる額=相続開始時における預貯金債権の額×3分の1×当該払い戻しを求める共同相続人の法定相続分
      ※上限は150万円まで
  4. 具体例
    被相続人甲がA銀行に普通預金3000万円及びB信用金庫に定期預金2100万円、C信用組合に定期預金600万円を所持している。甲の相続人には配偶者乙と子供丙の二人しかいない場合、子である丙はいくらまで民法909条の2を根拠に甲のお金を引き落とすことができるか検討する。
    丙の法定相続分は2分の1である。
    そこで、具体的には以下のようになる。
    1. A銀行
      普通預金3000万円×3分の1×2分の1=500万円
      しかし、一金融機関の上限額は150万円まである。
      したがって、A銀行からは上限の150万円までしか引き落とすことができない。
    2. B信用金庫
      定期預金1800万円×3分の1×2分の1=300万円
      しかし、一金融機関の上限額は150万円まである。
      したがって、B信用金庫からも上限150万円までしか引き落とすことができない。
    3. C信用組合
      定期預金600万円×3分の1×2分の1=100万円
      上限は150万円までなので100万円全額を引き落とすことができる。
      よって、C信用組合から100万円を引き落とすことができる。
    4. 合計
      以上から子である丙は、A銀行から150万円、B信用金庫から150万円、C信用組合から100万円の合計400万円を単独で被相続人甲の金融機関の口座から引き落とすことができる。
  5. 清算義務
    前述の具体例において、後日すべての財産を配偶者である乙が相続することとなった場合、子である丙がすでに甲の口座から単独で400万円を引き落としてしまっているから問題となる。
    この場合、全ての財産を相続する乙は、遺産分割において被相続人甲の口座から400万円を引き落とした共同相続人丙に対して、引き落とした現金400万円を請求する権利を取得する。
    一方、すでに400万円を被相続人甲の口座から引き落とした共同相続人丙は乙に対して400万円を支払う義務を負う。
    このように遺産分割において、すでに被相続人の口座から自己の相続分を超過した金額を引き落とした共同相続人は、その超過した金額を他の共同相続人に支払う義務を負うことで共同相続人間の公平が確保されることになる。
  6. 必要書類と具体的手続き
    民法909条の2を根拠に故人の口座から現金を引き落とす場合には、自己が相続人であることを書面で証明する必要がある。
    そこで、事前に引き落としをする金融機関に連絡をして、口座の引き落としに必要な書類をお聞きして、具体的な手続きの仕方を相談することを推奨します。