コラム

7.老後に備えて、その1(任意後見制度について)(2024年4月)

少子高齢化社会が進む現代社会で、身寄りのないおひとりの高齢者の方や、自分の家族には迷惑をかけたくないとお考えの高齢者の方がいると思います。今月は、そのような高齢者の方々にお役に立てる制度として任意後見制度をご紹介します。

  1. 成年後見制度と法定後見制度
    成年後見制度は、知的障害、精神障害、認知症によって、自分だけで日常生活に関することが決められなくなる不安や心配のある人が、諸契約や手続きをサポートしてもらう制度です。
    成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度があります。
    法定後見制度とは、家庭裁判所が選任した成年後見人が、精神上の障害により、判断能力が欠けているのが通常の状態にある方を保護・支援するための制度です。
    法定後見人には、代理権・取消権・同意権があります。
  2. 任意後見制度
    一方、任意後見制度は、病気などではなく判断能力も適切だと認められる人が、将来に備えてつける後見です。その特徴は、後見人を自分で選ぶことです。後見人と被後見人の関係は任意後見契約を交わすことによって生じる契約関係です。家庭裁判所によって任意後見監督人が選任された時点で、後見が開始されることと、任意後見人には代理権しか認められていない点も法定後見人と異なります。
  3. 任意後見人の代理権とは
    1. 本人に代わって任意後見人が契約などの各種手続きを行うことができる。
    2. 任意後見人が行った手続きは、本人が行った行為として認められる。
    3. 財産や生活の組み立てに関する法律行為にのみ適用される。
    4. 結婚、離婚などの身分行為や、遺言書の作成を代理することはできない。
    任意後見契約は委任契約の一種です。委任の内容は、後見の事務(本人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務など)です。本契約により、この事務を行うための代理権を任意後見人に付与することができます。委任事項としては、原則法律行為に限定され、事実行為(本人の世話や介護など)は含まれません。また、(ⅳ)の記載のように身分行為や一身専属的な行為も代理権になじまないため、委任することはできません。
    (ⅲ)について、前述のように任意後見契約は委任契約の一種であるので、どの範囲の法律行為について後見人に代理してもらうのか、任意後見契約に盛り込む必要があります。例えば、財産管理だけなのか、医療・介護の分野まで代理してもらうかなどです。任意後見契約を交わす際に、もれなく決めておかなければなりません。
  4. 任意後見人をつける目的(私見)
    任意後見人は、元気なうちに将来のリスク(認知症や要介護時)に備えて、自分で信頼のできる後見人を選び、後見の範囲を決めることができる制度です。後見に関して、自分のことは自分で決めることができる自主性を重んじられた制度であるといえます。よって、自分のことは自分で決めたい方にお勧めです。
  5. 任意後見人をつける手続きの流れ(概要)
    1. 任意後見契約を締結(公正証書にて作成)
    2. 本人(委任者)が、精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)により判断能力が不十分となる。
    3. 申立人が家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てを行う。
      申立人になれるのは、任意後見契約の本人(委任者)、その配偶者、その四親等内の親族、任意後見受任者です。
    4. 家庭裁判所が任意後見監督人の審判を行う。
    5. ④の審判がなされた時から、任意後見契約の効力が生じて、任意後見が開始される。
  6. 任意後見契約の注意点
    • 任意後見人は、原則契約内容で決められた法律行為を行うのであって、契約内容にない法律行為や事実行為を行う義務はありません。よって、前述にあるように本人の世話や介護などの事実行為は行いません。また、契約内容の法律行為だけを行うため、契約の際は、委任の内容をもれなく記載する必要があります。
    • 任意後見契約の内容になっていないことは、別途、任意後見受任者と契約を結ばなければなりません。例えば、委任者の死後の葬式や墓じまいなどを行う死後事務委任契約、委任者の元気な時に定期的に面会する見守り契約、病気などのため体の自由がきかなくなった時のための財産管理契約を挙げることができます。
    • 費用がかかります。
      以下の費用が考えられます。
      1. 任意後見契約の際の公正証書作成費用
      2. 任意後見人の報酬
      3. 任意後見監督人の報酬
      など。

以上を踏まえて、自分の老後の備えとして、任意後見制度の活用をご検討されてみてはいかがでしょうか。