コラム

6.自筆証書遺言書保管制度(令和2年7月10日開始)について(2024年3月)

令和2年7月10日より自筆証書遺言書保管制度が開始されました。この制度によって、以前と比べて自筆証書遺言書がより利用しやすくなりました。
今月はこの自筆証書遺言書保管制度について記載します。
(以下、法務省民事局作成の本制度のご案内参照)

  1. 自筆証書遺言書保管制度とは
    自筆証書遺言書を法務局(遺言書保管所)で保管する制度です。
    これまで自宅で保管されることの多かった自筆証書遺言書の紛失、改ざんや相続人に発見されないおそれなどの点を解消した制度です。
  2. 本制度のメリット
    本制度のメリットは、(ア)自筆証書遺言(民法968条)の無効のリスクが軽減されること、(イ)紛失のおそれがないこと、(ウ)費用が安価であること、(エ)検認が不要なこと、(オ)死亡後の通知制度(本制度の最大の特徴)があることです。
    1. 自筆証書遺言(民法968条)の無効のリスクが軽減されること
      自筆証書遺言はその名の通り、自筆で作成する必要があるため、民法968条の要件を満たさず、無効となる場合が考えられます。
      しかし、本制度では、法務局職員が、民法の定める自筆証書遺言の方式について外形的な確認(全文、日付及び氏名の自書、押印の有無等)を行います。よって、遺言書が方式不備で無効になることが少なくなります。
    2. 紛失のおそれがないこと
      遺言書の原本(遺言者死亡後50年間)と画像データ(遺言者死亡後150年間)を法務局(遺言書保管所)が長期間保管します。
      よって、遺言書の改ざんや紛失を防ぎます。
    3. 作成費用が安価であること
      公正証書遺言が財産の価格に応じた手数料がかかり、そのほかに公証人等の出張料・交通費・証人の費用などのお金がかかることがあります。
      しかし、本制度では、保管申請手数料として1件3,900円の費用のみとなります。ただし、保管した遺言書の閲覧、各種証明書等の請求には別途費用がかかることがあることに注意してください。
    4. 検認が不要なこと
      本来、自筆証書遺言では家庭裁判所での検認の手続きが必要です。
      テレビドラマや映画の影響で、検認の手続きをしないで遺言書を開封してしまい、遺言書が無効となる場合があります。
      しかし、本制度によって、遺言書を保管することで、家庭裁判所での検認の手続きが不要となります。
      逆に本制度を利用せず、自宅等で自筆証書遺言書を保管していると家庭裁判所での検認の手続きが必要になることに注意してください。
    5. 死亡後の通知制度があること(本制度の最大の特徴)
      本制度では(ⅰ)指定者通知と(ⅱ)関係遺言書保管通知の二つの通知制度があります。
      よって、相続人によって遺言書が発見されないというおそれを防ぐことができます。
      公正証書遺言では、このような通知制度がないので本制度最大の特徴といえます。
      1. 指定者通知
        遺言者からの事前の申出に基づいて、遺言書保管所において、遺言者の死亡の事実が確認できた時に、遺言者が指定した方に、遺言書が保管されている旨を通知します。
        現在住基ネットによって、法務局と市役所の情報が共有できます。遺言書保管所である法務局では、定期的に保管者の死亡確認をしています。よって、事前に本通知の申出をすれば、保管者死亡後何らの手続きをしなくても、遺言者が事前に指定した者に遺言書が保管されている旨が通知されます。
      2. 関係遺言書保管通知
        遺言者の死亡後、相続人等の一人が遺言書保管所において遺言書の閲覧、遺言書情報証明書の交付を受けた場合、その他の相続人等全員に対して、遺言書が保管されている旨を通知する制度です。
        遺言書を保管する際の申請書及び相続人等の一人が遺言書保管所において遺言書の閲覧・遺言書情報証明書の交付を受ける際に申請する添付書類で、閲覧・交付請求した者以外のその他の相続人等全員が遺言書保管場所たる法務局に把握されるので、その他の相続人等全員に対して遺言書が保管されている旨が通知されます。
  3. 注意点
    本制度はあくまでも自筆証書遺言書です。
    よって、以下の点に注意してください。
    1. 本制度では民法の定める自筆証書遺言の方式について外形的な確認(全文、日付及び氏名の自書、押印の有無等)しか行いません。
      よって、内容の記載は自己責任となります。つまり、遺言書や財産目録の記載漏れや誤字脱字に注意する必要があります。考えられる具体例として、相続人の記載忘れや財産目録に記載すべき不動産・銀行口座等を記載しなかった場合があります。また、遺言書や財産目録に記載していたとしても、相続人の氏名住所・不動産の所在・銀行口座番号の数字の記載誤りが考えられます。
    2. あくまでも自筆証書遺言書であるので、遺言者は作成時に自分の意思をきちんと伝える能力を備えていることが必要です。また、遺言者自身が書き上げる自筆が要件ですので、遺言者は他人が判読できる字を記載できる能力が必要です。
    3. 本制度の保管場所として法務局の出張所が含まれていません。たとえば、愛知県蒲郡市の場合、不動産登記の管轄法務局は本来、豊川市の法務局ですが、豊川市の法務局は出張所であるので、本制度の利用が出来ません。よって、愛知県蒲郡市に居住または不動産を所有している場合には、豊橋支局・岡崎支局・西尾支局など最寄りの支局で手続きをする必要があります。
  4. 私見
    本制度は、自筆証書遺言であるので、不動産を多く所有する方、金融資産を多く保有している方、財産を譲り渡す相続人等が多い方には不向きだと思います。なぜなら、遺言書に記載する内容が増えるため、記載漏れや誤字脱字の危険性が大きいからです。
    しかし、従来の自筆証書遺言書の制度に比べ、前述したようなメリットも大きいので、ごく普通のご家庭には公正証書で遺言書を作成するよりもメリットが大きいと思います。つまり、所有不動産も自宅位で銀行口座も一桁しかなく、株式等の金融資産もあまり所持していない上に、推定相続人も配偶者や子供数人の方にはすごくいい制度だと思います。
    保管する遺言書の作成には用紙等に要件がありますが、要件さえ合致すれば市販の遺言書作成キットで作成した遺言書でも本制度を利用することが可能である点も本制度の利用しやすさだと思います。